課長「分からないことがあったら聞け!それぐらい自分で考えろ!」部下「どっちだよ……」

1 : 2021/05/25(火) 18:06:43.434 ID:wIvhPCcq0
部下「うーん……」

課長「どうした?」

部下「いえ、大したトラブルじゃないんですけど……」

課長「遠慮するな。分からないことがあったら聞け!」

部下「ありがとうございます」

部下「これなんですけど……」

課長「ああ、このケースでは……」

部下「助かりました。ありがとうございます!」

2 : 2021/05/25(火) 18:10:24.907 ID:wIvhPCcq0
部下(また厄介な案件が出てきた……)

部下「すみません」

課長「なんだ」

部下「この件について相談したいんですけど……」

課長「はぁ? いちいち俺に聞くな! それぐらい自分で考えろ!」

部下「す、すみませんっ!」

部下(なんだよ。この間は分からないことがあったら聞けっていってたじゃないか……)

3 : 2021/05/25(火) 18:13:21.433 ID:wIvhPCcq0
部下「はぁ……」

同僚女「どうしたのー?」

部下「今日課長に怒られちゃってさ。いちいち俺に聞くな……って。聞けっていってたくせによ」

同僚女「あー、あの人そういうところあるよね」

同僚女「あたしもちょっと相談しようとしたら、怒鳴られたことあるし」

部下「だろ? やんなっちゃうよ」

4 : 2021/05/25(火) 18:17:35.387 ID:wIvhPCcq0
飲み会――

ワイワイ…

部下(あー、今日はあまり酒飲める体調じゃないな。ちっとも酒が進まない)

部下「……」グビッ

課長「おや? どうしたんだ?」

部下「今日は調子が悪くて……」

課長「だったら無理に酒なんか飲まない方がいい。なんならウーロン茶頼むか?」

部下「ありがとうございます……」

5 : 2021/05/25(火) 18:20:20.277 ID:wIvhPCcq0
また別の日の飲み会――

ワイワイ…

部下(今日も体調悪いからウーロン茶で……)

課長「おい、なにウーロン茶なんて飲んでんだ」

部下「え……」

課長「酒の場で酒飲まないってのは、お前酒に対する冒涜だぞ! ほら飲め飲め!」

部下「は、はい……」

課長「ほらグイッと!」

6 : 2021/05/25(火) 18:24:47.706 ID:wIvhPCcq0
……

課長「いちいち聞くな! 自分で考えろ!」

部下「すみませんすみません!」

部下「まーた怒られちゃった」

同僚女「ってことは今日の課長は≪課長B≫だったのね」

部下「ああ……≪課長A≫の時を見計らって、相談することにするよ」

いつしか部下達は、聞け状態の時の課長を≪課長A≫、聞くな状態の課長を≪課長B≫と呼ぶようになっていた。

7 : 2021/05/25(火) 18:24:56.432 ID:jA/EPc+N0
SSなのか実体験なのか
8 : 2021/05/25(火) 18:26:06.292 ID:Nhl+dLjfr
ドラクエかな?
9 : 2021/05/25(火) 18:28:33.434 ID:wIvhPCcq0
課長「分からないことがあったら聞けよー」

部下「は、はいっ!」

部下(今日はAだな……)

部下「さっそく分からないことがあって……」

課長「どれどれ……」

部下(よかった……Aの時のこの人はホント頼もしいからな)

10 : 2021/05/25(火) 18:31:25.882 ID:wIvhPCcq0
部下「すみません、すぐ調べて折り返しますんで……」ペコペコ

同僚女「トラブル?」

部下「ああ、これは課長に聞かないと……」スタスタ

同僚女「あっ……」

部下(今日の課長はAだから大丈夫だろう)

部下「すみません、ちょっと聞きたいことが……」

課長「あん!?」

部下「え」

課長「いちいち聞くな! 少し困るとすぐこれだ! 俺を頼るな!」

部下「も、申し訳ありません!」

同僚女(いうのが遅かったか……。さっきBになってたのを見たんだよね)

11 : 2021/05/25(火) 18:34:35.647 ID:wIvhPCcq0
部下「――ったく、コロコロ変わりやがって!」

同僚女「ねー」

部下「いちいちAかBか確認しなきゃいけないから、ホントストレスやばいよ」

同僚女「さっきもそうだけど、Aだと思ったらBになってることも多いしね」

部下「これならはっきりいってずっと課長Bの方がまだマシだよ。こっちも容赦なく嫌える」

部下「だけどAの時は本当にいい人だから、なかなかそういうこともできないしさ」

同僚女「それはあるね。飴と鞭を使い分けられてる感じ」

部下「それがあの人の上司としての戦略なのかもしれないけど、流石に我慢の限界だ」

部下「今度、ちゃんと話してみる」

12 : 2021/05/25(火) 18:37:37.034 ID:wIvhPCcq0
―喫茶店―

課長「コーヒー二つね」

店員「かしこまりました」

課長「最近調子はどうだ?」

部下「まあまあってところですね」

課長「困ったことがあったら何でも聞けよ!」

部下(どうやら今はAのようだな……だったら)

13 : 2021/05/25(火) 18:42:01.064 ID:wIvhPCcq0
部下「課長、相談事があるんです」

課長「なんだ?」

部下「自覚してるのか分からないですけど、課長って“なんでも聞けよ”って時と」

部下「“いちいち聞くな”って時があるじゃないですか。あれ、やめてもらいたいんですけど」

課長「……」

部下「こっちとしては、今どっちのモードなのか見抜くのがいちいち苦痛ですし……」

部下「あれじゃまるで二重人格ですよ」

課長「その通りだ。すまない」

部下「自覚があるんですか。だったら――」

課長「そうじゃない。俺は……二重人格なんだ」

部下「へ?」

14 : 2021/05/25(火) 18:43:35.611 ID:Nhl+dLjfr
!?
15 : 2021/05/25(火) 18:45:41.923 ID:wIvhPCcq0
部下「どういう意味ですか!?」

課長「そのままの意味だ。今も……」

課長「必死に抑え込んでるのだが……ぐ、ぐぐっ……」

部下「課長!?」

課長「がああああっ……!」

部下「課長、大丈夫ですか!? 課長!」

課長「――いちいち俺に聞くんじゃねえ! 自分で判断しろ!」

部下「!(Bになった……! まさに決定的瞬間……!)」

16 : 2021/05/25(火) 18:47:51.751 ID:wIvhPCcq0
課長「う! うぐぐ……」

部下「また!?」

課長「ちくしょう……せっかく出てこれたってのによ……この野郎……うぐぐ……」

部下「あ、あの……」

課長「……」

課長「ふぅ、すまなかったね。今はどうにか奴を抑え込めたよ」

部下「えええ……」

17 : 2021/05/25(火) 18:50:58.495 ID:wIvhPCcq0
部下「いつから二重人格に?」

課長「あれは管理職になってから、しばらく経った時だったよ」

課長「ある夜、夢の中で“奴”は現れた」

『いつもいつも部下思いの上司を演じてるが、本当はもっと冷たくしたいんだろぉ~?』

『部下の報連相を聞くなんてめんどいんだろぉ~?』

『俺がその夢叶えてやるよ!』

課長「それからだ。奴が時折、俺の人格を奪うようになったのは……」

部下「……」

部下(今の話を信じるなら、Aが課長の主人格であるってことか)

18 : 2021/05/25(火) 18:53:30.600 ID:wIvhPCcq0
部下「病院には行かれたんですか?」

課長「もちろん。だが、“管理職になったストレスによるものだろう”で済まされてしまった」

課長「“ストレスを溜めないようにすればそのうち治りますよ”と」

部下「サラリーマンやっててストレス溜めないようにしろってのも酷な話ですよね」

課長「自分でもどうにかしようとは思ってるんだが……。奴をなかなか抑え込めなくて……」

課長「君たちにも不便な思いをさせて、本当にすまん!」

部下「いえ、そんな……」

部下(まさかホントに二重人格だったなんて……俺としても何とかしてあげたいな)

部下(仕事中、ずっとAの方がいいに決まってるし……)

19 : 2021/05/25(火) 18:57:46.119 ID:wIvhPCcq0
部下「……というわけだったんだ」

同僚女「ホントに二重人格だったなんて。驚きの展開ね」

部下「あの様子じゃ、課長が自力で課長Bをやっつけるのは難しいだろう」

部下「この際、俺らで課長の人格統合を手伝ってあげたいと思うんだけど」

同僚女「そうだねぇ……ちょっと方法を考えてみようか」

アーデモナイ… コーデモナイ…

同僚女「あ、そうだ!」

部下「何か思いついた?」

20 : 2021/05/25(火) 19:00:42.206 ID:wIvhPCcq0
同僚女「課長は管理職のストレスで、課長Bを生み出しちゃったんでしょ?」

部下「ああ。きっと理想の上司を演じるのに疲れて、反動で部下に冷たいBが現れたんだ」

部下「普通の二重人格も、そんな感じで生まれるって聞いたことあるし」

同僚女「だったらさ、私たちがもっとBのことを受け入れてみようよ!」

部下「受け入れる?」

同僚女「私たち、Bのことはいつも怖がって避けてたけど、それじゃダメなんだよ」

21 : 2021/05/25(火) 19:03:13.936 ID:wIvhPCcq0
同僚女「Bもちゃんと上司として受け入れるの」

同僚女「怒られても冷たくされても、ひるんだりせず立ち向かうの」

同僚女「そうしたら、“横暴にしたって意味ないな”ってBが悟って、課長の中から消えてくれるかも」

部下「なるほど……いいアイディアかもしれない」

同僚女「でしょ!」

部下「やってみるか! 今日からは課長Bも恐れず受け入れる!」

22 : 2021/05/25(火) 19:04:58.608 ID:Nhl+dLjfr
AとかB呼ばわりがなんかおもろい
23 : 2021/05/25(火) 19:06:14.293 ID:wIvhPCcq0
部下(さっそく聞きたいことができた)

課長「……」ムスッ

部下(あの顔つき、間違いなくBだな。いつもだったら絶対話しかけないけど……)

部下「あの、ちょっと相談したいことが――」

課長「おい、いちいち俺を頼るな! 自分で考えろ!」

部下「いえ、そういうわけにはいきません」

課長「なんだと?」

部下「ぜひ、課長の知恵を拝借したいのです!」

課長「ふざけるな!」

24 : 2021/05/25(火) 19:09:24.370 ID:wIvhPCcq0
課長「自分で考えない部下なんざいらないんだよ!」

部下「考えた末の結論です」

部下「この件は、課長の力がどうしても必要なのです!」

課長「ぐ……! わ、分かった……聞かせてみろ」

部下(よし!)

部下(課長B、意外と押しに弱いことが分かった。これは大きな収穫だ)

25 : 2021/05/25(火) 19:12:50.776 ID:wIvhPCcq0
課長「自分で考えろ!」

同僚女「嫌です、教えて下さいよ~」

課長「ちっ、調子が狂う! これはだな……」

部下「課長、この見積もりについて相談が……」

課長「自分で考え――」

部下「考えました。今から俺の意見を述べますので、それから課長の意見を聞かせて下さい」

課長「うぐ……分かった」

26 : 2021/05/25(火) 19:15:24.875 ID:wIvhPCcq0
部下「よく分かりました! ありがとうございました!」スタスタ…

課長「……」

課長(どうなってる、これは……)

課長(俺はあいつらに冷たく接してるはずなのに、恐れず向かってきやがる……)

課長(いつも部下に優しい課長でいようとするあいつを守るため、俺は生まれたのに……)

課長(これじゃ俺が生まれた意味がないじゃないか!)

『もう一人の俺……』

課長「!?」

27 : 2021/05/25(火) 19:17:36.940 ID:fUeh0Lye0
続けてどうぞ
28 : 2021/05/25(火) 19:18:29.323 ID:wIvhPCcq0
課長A『もう一人の俺……俺だよ』

課長B『お前は……!』

課長A『やっと本音を聞けたよ。お前は俺を守るために出てきてくれたんだな』

課長B『ああ……そうだ!』

課長B『部下に頼られることが苦痛になってるお前に代わって、部下を冷たくあしらうためにな!』

課長A『そう、俺はうんざりしていた。部下に頼られることに……』

課長A『自分が忙しい時も相談を聞いて、時にはミスの尻拭いをして、気が狂いそうだったからな』

課長B『だろう?』

課長A『だが、今は違う!』

課長B『!』

29 : 2021/05/25(火) 19:21:19.076 ID:wIvhPCcq0
課長A『知識をつけ、経験を積み、俺は管理職として成長できた』

課長A『今の俺なら、部下がどんなに頼ってきても大丈夫だ』

課長B『うぐ……』

課長A『だが、もしお前がいなければ、俺は成長する前に、ストレスで潰れていたかもしれない』

課長A『俺を助けてくれて、ありがとう……』

課長B『フッ……お前も成長したな』

課長B『分かった……俺は消えるよ。後は……頑張れよ』

課長A『ああ……!』

30 : 2021/05/25(火) 19:24:18.033 ID:wIvhPCcq0
課長「……」

部下「課長……」

同僚女「どうしました?」

課長「もう一人の自分と“最後の対話”をしてきたよ」

部下「最後……ってことは――」

課長「もう一人の自分は……今消えたよ」

部下「そうですか……」

31 : 2021/05/25(火) 19:27:24.399 ID:wIvhPCcq0
課長「こうして、自分自身と向き合い、人格を統合出来たのは君たちのおかげだ!」

部下「いえ、そんな……」

同僚女「私たちは大したことしてませんよ」

課長「そんなことはない。俺一人じゃ、ずっと二重人格を克服できなかっただろう」

課長「さて、今まで迷惑をかけてしまったお詫びも兼ねて――」

課長「今夜は飲みに行かないか?」

部下「いいですねえ!」

同僚女「賛成!」

32 : 2021/05/25(火) 19:31:22.082 ID:wIvhPCcq0
カンパーイッ!

カチンッ

課長「さあ、飲んでくれ! 今日はおごりだ!」

ワイワイ…

部下「いやー、よかったよかった」

同僚女「ホント。これでもう課長は完全無欠の理想の上司になったわけね」

部下「課長Bがいなくなったらいなくなったで、ちょっと寂しいけどな」

同僚女「分かる! 私たちも扱いに慣れてきたとこだったしね」

33 : 2021/05/25(火) 19:35:54.373 ID:wIvhPCcq0
課長「おい」

部下「はい?」

課長「酒が進んでないんじゃないか?」

部下「え、結構飲んでますけど……」

課長「いーや、飲んでない! もっと飲め! 今日はめでたい日なんだからな!」

部下「は、はぁ……いただきます」

部下(あれ……? これはどういうことだ……?)

34 : 2021/05/25(火) 19:38:26.111 ID:wIvhPCcq0
部下「……」グビグビ

課長「よし、いいぞ! 酒の席は酒を飲まんとな!」

部下「……ひょっとして、課長って酔うと性格が反転するタイプなんじゃ」

同僚女「ってことは、今まで飲みの場で優しかった課長は、課長Bが酔った姿だったわけ?」

部下「そういうことになるな」

同僚女「アハハハ。いやー、世の中ってなかなか上手くいかないものね」

部下「ま、しゃあない。上手く付き合っていこう」

課長「今夜は飲むぞぉ~!」

― 完 ―

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