肛門って入口・出口　どっちなの？　＊

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（ガリバー旅行記）：５０　ジョナサン・スウィフト

　■第３部　ラプータ、バルニバービ、ラグナグ、グラブダブドリブ、日本渡航記

　また別の部屋に入ってみると、壁からも天井からも蜘蛛（クモ）の巣がびっしり垂れていて、発案家が出入りする細い通路があるだけでした。入っていくと、発案家に「巣を乱さないで下さいよ」と警告されました。「世界は長年、蚕（カイコ）を使うという致命的な間違いを犯してきました」とこの人は嘆きました。「もっとずっと優れた虫が、ごく身近にたくさんいるというのに。何しろ彼らは糸を紡ぐばかりか、織ってもくれるのです」

　さらにこの人物は、蜘蛛を起用することによって絹を染める費用もゼロにできると唱えていて、この上なく美しい色をした蠅（ハエ）を多数見せられて私もすっかり納得しました。これらの蠅を蜘蛛に餌として与えれば、糸もその色を帯びるようになるはずで、しかもすべての色の蠅を揃（そろ）えてあるので万人の好みに応じられる。あとはただ、蠅の餌として、しかるべきゴム質、油などの粘着性物質さえ発見すれば、必要な強度と均質さが糸に備わるという説明でした。

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　町の庁舎にある大きな風見鶏に、日時計を着けようとしている天文学者もいました。地球と太陽の一年ごと、一日ごとの運動を調整して、刻々変わる風の変化に合わせようというのです（１）。

　私が軽い腹痛を訴えますと、案内人がある部屋に連れて行ってくれて、そこに偉いお医者が一人おられました。何でも、腹痛の対処に、同じ道具で二つ正反対の治療を行うことで有名なのだそうです。

　部屋には大きなふいごがありまして、これに細長い、象牙の口が付いています。この口を肛門（こうもん）から体内に二十センチばかりつっ込み、空気を抜けば、腸は乾いた膀胱（ぼうこう）のようにぺしゃんこになると医者は請けあいました。

　が、腹痛がもっとしぶとく激しいときは、ふいごに空気をいっぱいに入れた状態にして象牙の口を肛門に差し、患者の体内に空気を吹き込んでから引き出し、親指を尻の穴にぎゅっと当てて漏れを防ぎ、また空気をいっぱいに入れます。これを三、四回くり返しますと、送り込まれた空気がいずれ一気に噴出し、有害な物質も一緒に出てきて（要するにポンプで水を汲〈く〉み上げる要領です）、患者は回復するというわけです（２）。

　この医者が一匹の犬を使って両方の実験を行うのを見学しましたが、前者の実験からは何の効果も見てとれませんでした。後者の実験では、犬の体は破裂せんばかりに膨れ上がり、ものすごい勢いで腸の中身を放出したため、とにかくすさまじい臭さで、私はむろん、部屋に居合わせた人たちがみな文字どおり閉口しました。即死した犬を同じ手順で生き返らせようと奮闘している医者を残して、私たちは部屋をあとにしました。

　ほかにもいろんな場所を訪ねましたが、ここは簡潔さを重視し、出くわした珍しいものを一々並べることは控えます。

　ここまではまだ、通りの両側に建つ学術院の一方の側しか見ていません。もう一方の側は、思弁的学問の推進者たちが使用しています。この人たちに関してはこのあとで触れますが、その前にまずは、発案家たちのあいだで普遍学者と呼ばれている一人の立派な人物についてお話しします。

　自分はこの三十年ずっと、人類の生活向上のために思索を続けてきたのだ、とこの人は私たちに語りました。部屋を二つ与えられていて、どちらにも珍奇な品がびっしり並んでおり、五十人の人間が作業しています。何人かは空気を凝縮して、手に触れられる乾いた固体に変えようとしていました。窒素を抽出し、液体の分子を濾過（ろか）しようというのです。またある者は大理石を柔らかくして枕と針刺しを作ろうとしており、生きた馬のひづめを石に変えて馬蹄炎（ばていえん）をなくそうとしている人たちもいました。

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　普遍学者その人は、折しも二つの大きな企画に没頭しておられました。ひとつは、地面に籾殻（もみがら）を蒔（ま）く企画。籾殻こそ真の生殖能力を含んでいるのだと学者は主張し、さまざまな実験によって立証してみせましたが、私には難しくて理解できませんでした。もうひとつは、ゴム質、鉱物、植物の合成物を仔（こ）羊二匹の体に塗ることで、羊毛の発育を阻止し、いずれは裸の羊の品種を国じゅうに繁殖させるという企画でした（３）。

　私たちは通路を渡って、学術院のもう一方の、すでに述べたとおり思弁的学問の発案家たちが居住する側に行きました。