看護師「多くの人が亡くなっている中で五輪を開催することが疑問で今は怒りに変わった。今からでも中止すべき」　第5波に不安が残る大阪

　大阪府内の新型コロナウイルスの感染者が再び増加している。
29日の新規感染者は932人に上り、病床使用率の悪化も時間の問題とみられている。
「数時間搬送が早ければ重症化を避けられるケースもある。第4波の反省を踏まえ、行政の対応が改善されているのか」。
医療崩壊とされた今春の第4波で、大阪市内の民間病院でコロナ患者に寄り添ってきた30代の女性看護師に、第5波の医療現場の現状と東京五輪への思いを聞いた。

　女性は昨年春から救急外来と発熱外来の担当として新型コロナ患者に向き合ってきた。
経験の浅い同僚に人工呼吸器の使用方法を教えながら、第5波への備えを進めている。
勤務する病院は、第4波のピークでは軽中等症患者を受け入れるコロナ病床がずっと埋まっていた。
6月中旬には数床まで減ったが、7月に入って新たな入院患者が増え始め、7月30日現在の使用率は4分の3に達していた。

　発熱外来で来院した患者が陽性と確認されるケースも増えている。
予防接種を受けていない人や、1回目だけ接種した人の感染が多いという。
女性は「（昨冬の）第3波の後は感染者が途切れたが、第4波と第5波の間は波が続いている感じ」と話す。

　コロナ専門病床を70床整備する市立十三市民病院でも約30床が埋まっている。
第4波と比べて高齢者の割合が低く、50代までの若い年代が多いという。
病床が日々埋まっていく現状に、女性は「第4波では、感染拡大に対応するための仕組みを行政が整えられなかった。感染拡大を防げなかった原因の分析がどこまでされていて、改善されているのかに不安が残る」と話す。

　大阪市保健所では、第4波で爆発的に感染者数が増えた際、疫学調査や入院調整の作業が滞り、患者への連絡が最大10日かかったケースもあった。
その結果、入院やホテル療養の開始が遅れ、府内では在宅のまま19人が亡くなった。

　女性の病院では4月下旬、搬送までに時間を要したため入院時に重篤な症状に陥っていた患者もいた。
本来は受け入れていない重症患者も4人治療した。
人工呼吸器の不足から十分な医療支援ができず、ひつぎに納まって病院を後にする患者を見送ることもあった。
そんな状況でも府からは更なる増床を求められた。

　行政側は第4波の反省を踏まえ、さまざまな策を打ち出した。
第4波時点の府内の重症病床は約360床で、あふれた重症患者は中等症病床への入院を余儀なくされた。
現在は約590床を確保。
軽中等症病床も3000床の確保を目指して、2510床まで積み増した。

　大阪市保健所は疫学調査態勢を強化するため、市内の新規感染者数に応じて派遣会社や他部署から増員する計画だ。
新規感染者数が100人を超えるようになり、7月26日から疫学調査担当をほぼ計画通りに増やした。
さらに感染者が増えた場合、派遣職員を計画通りに確保できるか不透明といい、担当者は「早めの対応を心掛けたい」と話す。

　だが女性の行政に対する不信感は根強い。
「第3波や第4波の対策では、多くの患者さんが死んでしまった。全ての課題を解決して第5波に対応してほしい」と訴える。

　女性の周囲の医療従事者は旅行や外出を控えているが、夏休みシーズンに入って人の移動が活発化してきた。
「緊急事態宣言もまん延防止等措置も国民に忘れられている気がする。自分や身近な人が病院に世話になるときに初めて病床の逼迫（ひっぱく）に気付くのかなと思います」と世間の緩みに危機感を覚える。

　柔道やバドミントンの経験がある女性は、これまではテレビにかじりついて五輪を楽しんできたが、今回ばかりは興味を持てないという。
「これだけ多くの人が亡くなっている中で五輪を開催することがずっと疑問で、今は怒りに変わってきている。医療現場のことを思うと、五輪を見てリフレッシュできる精神状態じゃない。今からでも中止すべきだ」と話す。

https://news.yahoo.co.jp/articles/bd25fe11f1b9372bd475e9bdd0c7cc1ec0ffd60b